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世襲とドラフト制

2009715

宇佐美 保

 世襲議員の横行にはどなたもうんざりされておられる事でしょう。

週刊ポスト(2009.5.8/15号)の

「衆院選300選挙区「(議員184人)世襲リスト」のあ然!」

との次のような記事が出ていました。

 

「調査対象者」を現職の衆院議員で、前回選挙で選挙区からの当選者、比例当選だが次期選挙で選挙区からの公認候補である者。及び元議員で今回立候補予定の者

 

尚、「世襲議員」の判断基準を基本的に両親か祖父母(義理の血縁関係を含む)が国会議員、都道府県知事、都道府県議会議長、政令指定都市市長の場合、後藤田正純は大叔父が副総理、叔父が衆院議員。森山眞弓、永岡桂子は夫の、竹下亘は兄の死後に、地盤を引き継いでいるため世襲議員とした

 

との注釈がついていましたが、300選挙区で世襲議員184人が次の選挙に立候補するのでは、週刊ポスト同様に、「あ然!」として腰を抜かしてしまいます。

 

 更には、次のようにも書かれていました。

 

 

 社会党の村山内閣を経て自民党が政権に返り咲いた橋本龍太邸・首相(96年就任)以来の13年間に、小渕恵三、森書朗、小泉純一郎、安倍晋三、福田康夫、麻生太郎まで7氏が「総理の椅子」に座ったが、森氏(父が町長)を除く全員が「国会議員の息子」である。

 

 

 彼ら世襲の首相達は何をしてくれたのでしょうか?

国債の推移(19824月以降)を見てみますと、次図のように、「国債」を莫大に発行してくれています。(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia


国債の推移(19824月以降)
赤が内国債、黄色が短期証券、青が借入金、水色が一時借入金


そして、
世襲5世」の麻生氏は、今回の世界的な不況を「百年に一度の不況」とまるで、天災でもあるかのように認識し、私達の税金をいたるところにばら撒いています。

(今回の不況と言えども、天災ではなく人災です。日本政府が(単独ではなく世界と協調してでも)それなりに対策を取っていれば、避けられた筈です)


 更には、この週刊誌に「現在の麻生内閣は17の閣僚のうち12までを2世や3などの議員が占める」と書かれている閣僚達はどうなのでしょうか?
その一人の「森英介・法相」に関しては次のように紹介してくれています。

 

 

 祖父で昭和電工の創設者、森矗昶氏以来の3世議員である森英介・法相は、「大正13年からずっと一族で議席をいただいてきた。

そういう家に生まれただけで排除されるのは不合理。

有権者から理解を得られればいい」

 と、世襲規制論に反対の声をあげた。

 

 

 しかし、森英介・法相」は、拙文《無罪を主張すると殺される(飯塚事件)》にも記述しましたが、足利事件で菅家利和さんを冤罪に導いた「DNA鑑定:MCTl18」と同じ鑑定で無罪を主張していた「飯塚事件の久間三千年元死刑囚」を法相に就任(08年9月24日)後の1ヶ月ほど(10月28日)で、「死刑を執行している」のです。

 

 しかも、その死刑執行の2週間ほど前(1015)に「足利事件について、東京高検の検察官が、DNAの再鑑定をすることを前提とした意見書を出した」というのにです!

私は、「世襲の家に生まれたから」と言う理由だけでなく、この一般市民の人命よりも「冤罪」を発覚を防ぐが為の(?)法の執行を重視する「森英介・法相」を排除させて頂きたく存じます。

 

 

 他の閣僚塩谷立・文部科学相に関しては次のようにも書かれています。

 

 しかし、2世、3世政治家たちは「世襲の効用」を説くのではなく規制は「憲法の職業選択の自由に反する」(塩谷立・文部科学相)、と出馬の権利を主張するばかりなのだ。

 

 

 確かに、麻生首相もテレビ画面の中で、このような発言をされていました。

そして、安倍元首相も「政治家を職業」と認識されております。

この件は拙文《差別、格差社会を招く安倍晋三氏》の一部を再掲いたします。

 

 

安倍氏の著作『美しい国へ』から、次なる箇所を抜粋させて頂きます。

 

 わたしが職業として政治にかかわることになるのは1982年、父の晋太郎が、中曽根内閣の外務大臣に任命されたときである。当時わたしは東京・八重洲の本社(筆者注:神戸製鋼)にある輸出部に転勤していた。父は、出社前のわたしをつかまえて、

「オレの秘書官になれ」

「いつからですか」

「あしたからだ」・・・

 

 

 私には、政治家が職業であるのが信じられません。

《職業》とは「広辞苑」をひくまでもなく「生計を立てるための仕事」と解釈されます。

私は、政治は職業意識ではなく

ノーブレス・オブリージnoblesse oblige

の精神で行っていただきたく思っております。

ノーブレス・オブリージnoblesse oblige」に関しては、拙文《ノーブレス・オブリージとビル・ゲイツとウォーレン・バフェット》、《ノーブレス・オブリージと日本人》もご参照下さい

 

しかし、残念ながら、政治家が実に見入りの良い職業(職業と言うより「家業」)である事を週刊ポストは次のように教えてくれます。

 

 

◆世襲のうまみA − 年商1億円の政治家業

 

 政治家を「家業」としている典型が小泉家だ。祖父の又次郎氏、父・純也氏から地盤を継いだ小泉氏の事務所では、実姉が政策秘書、妹婿が第一秘書など、長い間身内≠ナ公設秘書を固め、実弟も地元秘書として選挙区を守ってきた。

 こうしたケースは永田町では珍しくない。息子に地盤を譲って引退した元代議士はしみじみとこう語った。

 「国会議員の活動には歳費と文書通信交通滞在費、政党交付金、公設秘書3人の給料を合わせると年間1億円近い国費が支給される

加えて政治献金がある。その資金で一族郎党の生活の面倒を見るのだから、落選すれば全員路頭に迷う。引退の時も身内を後継者にしなければ一族を守れない」

 小泉氏が世襲批判などどこ吹く風で、二男の進次郎氏を次期総選挙に出馬させるのも、年商1億円≠フ国会議員という「家業」を守るためなのだ。

 

 

 成る程成る程!

“自民党をぶっ壊す!”といって総理の座に就いたも小泉氏も、
“総理も、政治家も使い捨て!甘ったれるのでない!”と
小泉チルドレンをどやしつけていましたが、
御自分の「職業(家業)」ぶっ壊しもせず、使い捨てにもせず、
大事に二男に継承させようとしているのです。

 

 このような小泉純一郎氏ですから、

“日本を変える!”などの彼の言葉が私達の為の言葉でなかった事に改めて気が付くのです。

そんな小泉純一郎氏に日本中は騙されて熱狂的に支持していたのです。

(私も騙されましたが、パックインジャーナルの司会者:愛川欣也氏と、その番組の構成作家:横尾和博氏の両氏は小泉氏登場時点から、小泉氏の欺瞞を訴えておられました)

 

 こんな実入りの良い「家業」(職業)は、当然ながら憲法で守って貰おうと政治家達が足掻くのも分かります。

その上「年商1億円≠フ国会議員という「家業」」には相続税がかからないと言うのですから!

 

 この件は、次のように解説してくれます。

 

◆世襲のうまみ@ − 政治資金の相続

 

 大物政治家ともなると献金やパーティなどで莫大な政治資金を集める。

 政治資金は本来、その政治家の活動に対してなされる寄付であり、政治家の家族のものではない。しかし、親から子へ、政治資金は受け継がれるのだ

 安倍晋三・元首相は父の晋太郎・元外相が病死した2年後の総選挙(93年)で初当選した。派閥領袖の実力者だった晋太郎氏は政界屈指の資金力を誇り、亡くなった時には60以上の関連政治団体に6億円を超える政治資金を残していたとされ、その政治団体の多くを秘書だった晋三氏が引き継いだことが報じられている

 小渕優子・少子化担当相の場合も、父の恵三・元首相の死後、優子氏の資金管理団体に12000万円が移された。

 政治資金研究の第一人者、岩井奉信・日本大学法学部教授が指摘する。

親から子へ財産を移せば相続税、贈与税の対象になりますが政治団体を引き継げば事実上、政治資金が無税で丸ごと子供のものにできる

 新人候補はゼロから支持者を増やし、献金を集めなければならないのに、世襲議員は最初から親が集めた資金で優位に選挙を戦えるのです」・・・

 

 

 そして、この美味しい「家業」には更なる美味しさが加わっていると教えてくれます。

 

 議員秘書の経験がある政治評論家・有馬晴海氏は、政治家ジュニアの中には進学の段階から特権″を使うケースもあるという。

某有名私大には特定の学科に学部長の入学推薦枠がある。ある大物代議士の秘書が、『派閥の議員から頼まれてその息子のために枠を取ってやった』といっていました。その息子は現在、議員になっているが、大学名はいっても学科を公表されるのを嫌う。永田町では、『ああ、特別枠か』とわかりますからね」

 就職も恵まれている。議員のジュニアで多いのはテレビ局、新聞社や広告代理店などマスコミと大手銀行、航空会社といった人気企業だが、自民党ベテラン議員は、「優秀な息子なら官僚にする。選挙では役所の支援を受けられるし、予算を取ってくることができるので後援会も喜んで後継者に迎えるからだ」という。

 

 

 そして、傍から見ているとこの政治家という職業は、世襲の歌舞伎役者気取りで(?)、官僚が作った台本を国会と言う舞台で、濁声でも棒読みでも良いから、読み上げてさえいれば良いように見えるのです。

 

 こんな美味しい「家業」には、誰だって新規参入したくなりますが、とてもそれが困難なのです。

なにしろ後援会組織が「老舗」と共存共栄しているというのですから!

 

 

◆世我のうまみB──後援会組推に利権を分配

 

 政治家の後援会組織は、国会議員を頂点に、地元の県議や市議、首長らが連なり、それに地元建設業者など後援会企業が一体となった利益共同体だ

 有力議員になれば、地元に公共事業予算や補助金をつけ、後援会組織全体を潤わせて地盤を強固にしていく。二階バイパス″をはじめ地元に多くの公共事業を引っ張ってきた二階俊博・経産相や同じく地元に愛と誠橋≠造った古賀誠・党選対委員長など、道路

族議員が選挙に強いのはそうした土壌があるからだ。

 だが、有力政治家の引退を機に傘下の地元議員や新人候補の間で後継者争いが始まり、後援会組織が分裂すると、それまで築きあげた共存共栄″の地元への利権誘導システムが壊れてしまう。

 政治評論家の三宅久之氏は、だからこそ世襲が増えていくのだという。

議員だけでなく、後援会にとっても自分たちの利益を守るためには、有力議員が引退したり、亡くなった時は議員の息子や娘に世襲させて公共事業の配分役の仕事を継がせたほうが利権構造をそのまま残せる

 世襲は自民党政権が作り上げてきた利益誘導政治の行き着く先といえる。

 

 

 これでは、この美味しい「職業」に新規に参入を企てても(清貧の志を持ってさえ)、いわゆる「地盤、看板、鞄」に守られた「世襲議員」(老舗)を打ち破るのは困難です。

 

 、先の「塩谷立・文部科学相」或いは、麻生首相たちの世襲議員たちは、次に掲げます憲法第22条(職業選択の自由)を守り本尊としています。

 

憲法第22条 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

 

しかし、第14条では“すべて国民は、法の下に平等”を謳っています。

 

憲法第14条 すべて国民は、法の下に平等であつて
人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

 

 従って、選挙も「すべて国民は、法の下に平等」に行われるべきでしょう。

そして、この選挙によって

「新たなる特権階級を作ってはならない!」

と言うことではないでしょうか?

 

 

 この為には、先ず英国の制度を見習うべきではないでしょうか?

週刊ポストは次のように記述しています。

 

 もちろん、世襲に歯止めをかけることは可能だ。英国では貴族院議員は世襲なのに対して、
下院議員は親子が同じ選挙区から出馬することを規制している

「選挙区の世襲を行なうと腐敗が進む可能性があるからです。政治家の子どもが立候補する際は、
政党が、親と違う選挙区に送り込む。・・・」 (前出・岩井氏)

 

 

 1965年にプロ野球に於いて「ドラフト制」(新人選手がプロ野球の球団に入団する際には、選手側にはその球団選択権がなく、各球団がドラフト会議を開催して球団側が(抽選などで)獲得希望選手を選択する)が導入された際は、マスメディアも大いに騒ぎました。

 

 “選手の球団選択権を認めない事は、憲法第22条の職業選択の自由を犯すことになる!”と

 

 しかし、このドラフト制度の導入の結果、今でもプロ野球は繁栄し、今年もWBCで、世界のナンバーワンの座を獲得しました。

 

 

 それでも、政治家諸氏は“プロ野球選手と政治家を同じに扱うな!”と宣うかもしれません。

しかし、待ってください!

職業に貴賎なし

の言葉を思い出してください。

(差別発言を口の端の浮かべる麻生太郎氏がこの言葉をご存知かは知りませんが)

 

 でも、残念な事に、政治家の方々をテレビなどで拝見していると

「職業への志には貴賎あり

を痛感せざるを得ません。

 

 若し、

政治家の方々が“自分は、貴なる志を持って政治に携わっている”と広言できるのなら、
英国同様な「世襲制限」受け入れて頂きたいものです。

 

 プロ野球選手は、「プロ野球という職業を選択し」、「ドラフト制度」を甘受しているのですから、政治家も「政治家という職業を選択し」、「世襲制限制度」に従って頂きたいと存じます。

 

 そして、願わくば「貴なる志にて政治を全う」して頂きたいのです。

そして、私は、

貴なる志による行為」こそが、ノーブレス・オブリージnoblesse oblige

であると認識しているのです。

 

 

 

(蛇足)

 

 プロ野球界の名家「長嶋茂雄家」、「野村克也家」、両家とも世襲に大いなる力を注いだようですが、成功されなかったようです。

 


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